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鳥取地方裁判所 昭和38年(行)4号 判決 1964年7月24日

鳥取市上町一九番地の二

原告

徳田隆一

市東町二丁目三〇八番地

被告

鳥取税務署長

毛利正

指定代理人 鴨井孝之

香河安雄

横田正美

米沢久雄

常本一三

右当事者間の昭和三八年(行)第四号損失申告書提出期限延期申請書に対する処分取消請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告の提出した異議申立に対し昭和三八年三月九日付鳥直所第三九号によつてなした却下処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因を次のとおり述べた。

一、原告は、昭和三二年分の所得税の確定申告書を昭和三三年三月一四日に、昭和三三年分のそれを昭和三四年三月一六日に、昭和三四年分のそれを昭和三五年三月一五日にそれぞれ提出し、昭和三三年分金六万三、三〇四円、昭和三三年分金一三万九、八一〇円、昭和三四年分金三五万一、七四八円の各所得税を納付した。

二、原告は、昭和二〇年八月一五日以前より南朝鮮にて所有していた財産(土地、船舶、漁網、漁具を含む)の所有権が昭和三二年一二月三一日にその権利を喪失したことを、昭和三六年三月一〇日付の新聞紙に掲載された「日韓請求権に関する文章」と題する外務省発表の公文書によつて知つたが、税法上の所得の発生には発生主義が採用されているから、右財産の所有権喪失は所得税法上昭和三二年分の総損失に該当するというべきところ、その雑損失額は金八七〇万円であるから、これを昭和三二年分の課税所得金額金八〇万三、五五二円と通算すれば、同年分の所得額は金七八九万六、四四八円の損失となり、所得税額は零となる。しかも右損失は繰り越されて昭和三三年分課税所得金額金一五〇万五、五六九円、昭和三四年分課税所得金額金二五七万八、六八九円もまた通算の結果所得税額は夫々零となる。

三、前記南朝鮮における所有権の喪失に関する外務省の発表が昭和三三年三月一五日までに行われておれば、当然雑損失の控除について記載した昭和三二年分の所得税損失申告書を提出して同年分の所得金額は損失となり、納税の必要なく、従つて昭和三三、三四年分もまた納税を要しなかつたはずである。

四、しかし、原告が右三カ年分については既に確定申告書を提出して納税しているので、右三カ年分の損失申告書提出期限の延期申請が認められるときは右延期期間内にその損失申告書を提出すれば期限内の申告となり既納税金の還付請求権を取得するところ日本国政府(外務省)は故意に日本国政府が大韓民国政府に対し南朝鮮における日本人の私有財産に対する所有権の放棄を承認した事実を隠蔽したため、原告は期限内に適正の申告ができなかつたのであるからその責任は政府にあり、原告にとつては所得税法(昭和三七年四月二日法律第六七号による改正前のもの、以下同じ)第二六条の二第二項、同法第二五条の三に規定する、「その他の状況により止むを得ない事由があると認めるとき」に該当するので、原告は、昭和三六年四月七日(八日の誤記と認める)同法第二六条の二第二項、同法施行規則第二一条第三項により前記三カ年分の所得税に関する損失申告書提出期限の延期申請書を被告宛に提出した。

五、然るところ、被告は前記延期申請に対し、昭和三七月一三日付鳥直所第四二号の回答を送付して来たが、右回答は次の事由により右延期申請に対する処分とは認められない。

(一)  右延期申請の可否は税務署長の決定事項である(昭和二九年政令第六三号改正後の所得税法施行規則第二一条第二項)が、右回答は広島国税局長の意見を通知して来たのみで、被告の意思表示はないから、被告の処分とはいえない。

(二)  右回答の内容は、課税所得金額が損失となつたで原因ある雑損失について述べているのみで、延期可否については何も述べられていない。又雑損失についても大韓民国の財産没収の時期について事実の誤認がある。

(三)  雑損失に該当するか否かの点は、損失申告書が提出されてから判定さるべきであり、又雑損失に対する誤つた判断を理由として申告書の延期を拒否された場合は所得税法上是正の途がない。

六、そこで、原告が、右回答は右延期申請に対する処分でなく、右延期については何ら処分がなされていないとの趣旨で、昭和三八年一月四日被告に対し行政不服審査法第七条により不作為の異議申立を行つたところ、これに対し、被告は、同年三月九日付鳥直所第三九号にて「昭和三七年鳥直所第四二号にて所得税法第二六条の適用を受けないことは既に回答済みであり、従つて異議申立の対象となつている申請は既に処分済みである。」との理由で却下決定(以下、本件却下という)を行つた。

七、然しながら、本件却下決定は、異議の対象たる前記延期申請に何らの処分をなしていないのに処分済みとし、又所得税法第二六条は確定申告書の延期に関する規定で申請にかかる損失申告書の延期に関する規定ではないから法の適用を誤つておるばかりではなく、前記第四二号の文書には同条の記載さえ全く見当らない。

よつて、本件却下決定は取り消されるべきである。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁及び主張として次のように述べた。

一、請求原因一の事実は認める。

同二のうち、昭和三六年三月一〇日付の新聞紙上に「日韓請求権に関する文書」と題する外務省発表の公文書が存在すること(但し、右文書により南朝鮮における日本人の所有財産についてその所有権を喪失したという趣旨ではない)、税法上所得の発生について原則として発生主義を採用していることは認める、原告が南朝鮮において所有していた財産の所有権を昭和三二年一二月三一日喪失したことを右文書で知つたことは不知、その余の事実は否認する。

同三の事実は否認する。

同四のうち、昭和三二、三三、三四年の三カ年分所得税について確定申告書が提出されたこと、原告が昭和三六年四月八日右三カ年分の所得税に関する損失申告書提出期限の延期申請が被告に対しなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同五のうち、被告が原告の右申請に対し昭和三七年三月一三日付鳥直所第四二号で回答したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同六の事実は認める。

同七の事実は否認する。

二、本件却下決定は適法である。

すなわち、被告は、昭和三七年三月一三日付鳥直所第四二号の通知書により既に原告に対し、終戦により没収された南朝鮮における所有資産については、所得税法第一一条の四(雑損控除)の規定の適用がないこと、原告の前記損失申告書提出期限延期申請が許されないものであることを通知したので、原告の右延期申請につき不作為を理由とする異議申立は、不作為が成立しておらず不適法であるから、被告は、行政不服審査法第五〇条第一項の規定に則り右不作為の異議申立について却下決定をしたまでである。

よつて、原告の本訴請求は理由がないというべく、棄却を免れない。

証拠として、原告は甲第一ないし三号証、第四号証の一ないし三を提出し、被告指定代理人は甲号各証の成立はすべて認める、甲第一ないし三号証は利益に援用すると述べた。

理由

原告が昭和三三年分の所得税の確定申告書を昭和三三年三月一四日に、昭和三三年分のそれを昭和三四年三月一六日に、昭和三四年分のそれを昭和三五年三月一五日にそれぞれ提出し、昭和三二年分金六万三、三〇四円、昭和三三年分金一三万九、八一〇円。昭和三四年分金三五万一、七四八円を納付したこと、昭和三六年三月一〇日の新聞紙上に「日韓請求権に関する文書」と題する外務省発表の公文書が存在すること、税法上所得の発生について、原則として発生主義を採用していること、原告が昭和三六年四月八日昭和三二、三三、三四年度の損失申告書提出期間の延期申請書を被告宛に提出したので、これに対し、被告が昭和三七年三月一三日付鳥直所第四二号にて回答したこと、然るところ、原告は、右回答には右延期申請に対し処分がなされていないとの趣旨で、被告に対し昭和三八年一月四日行政不服審査法第七条により不作為の異議申立をなし、これに対し被告が同年三月九日付鳥直所第三九号にて「昭和三七年鳥直所第四二号にて所得税法第二六条の適用をうけないことはすでに回答ずみであり、従つて、異議申立の対象となつている申請はすでに処分ずみである。」との理由で本件却下決定を行つたことは、当事者間に争いがない。

そこで、本件却下決定の適法性について判断するに、成立に争いのない甲第一ないし第三号証に弁論の全趣旨を併わせ考えると、被告は、原告の申請にかかる損失申告書提出期限延期申請書(甲第二号証)を受理したが、右申請書添付の説明書(標題(一)損失発生の事実、(二)前記損失は雑損失である、(三)期限後提出について)に関し疑義があつたので、広島国税局長に対し、照回したところ、所得税法上の救済措置がない旨の回答に接したので、被告鳥取税務署長は、原告に対し昭和三七年三月一三日鳥直所第四二号を以て「終戦により没収せられた南韓における所有資産を所得税法第一一条の四(雑損控除)の規定適用の可否並びに期限後申告の取扱について客年四月八日付をもつて申請のあつた標題のことについて広島国税局長に上申のところ、所得税法上の救済措置はない旨の回答があつたから御通知いたします、追つて南朝鮮において所有していた財産は昭和二〇・一二・六付米国軍政命令により没収されたもので当時は雑損控除に関する視定がなく、また現行所得税法第一一条の四同法施行規則第一二条の二三および第八条の三の規定にも該当しないものと解されます。」と記載した書面を原告宛に発送し、該書面がその翌日原告に送達せられたことが認められる。而して、右認定事実によれば、該鳥直所第四二号書面は被告が原告の右損失申告書提出期限延期申請に対し広島国税局長と同一の見解に基づきこれを拒否する旨表明したものと解するに充分である。従つて、原告が行政不服審査法第七条によりなした異議申立の対象となつている右延期申請に対しては被告は右鳥直所第四二号を以て既にこれが拒否処分をなしているものというべく、原告の右不作為の異議申立は、原告主張のその余の点について判断せられることなく、不適法として却下を免れないところであるから、これと同趣旨で却下した本件却下決定は適法であるといわなければならない。

してみれば、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 児島武雄 裁判官 鐘尾彰文)

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